大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎地方裁判所延岡支部 昭和30年(わ)231号 判決

被告人 田野正俊

主文

被告人を罰金五千円に処する。

被告人において右罰金を完納できないときは、金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し本裁判確定後二年間右刑の執行を猶予する。

理由

被告人は昭和二二年七月五日宮崎県公安委員会より普通自動車運転免許をうけ、昭和二六年八月頃宮崎交通株式会社に運転手として雇われ同社延岡営業所に所属して延岡高千穂間、延岡下赤間等のバスの運転業務に従事しており、昭和三〇年八月二九日、午前七時延岡発下赤行一九五一年式いすずデイーゼル普通バス宮二―七六八五号を運転し、同日午前八時一〇分頃乗客一二、三名位を乗せて東臼杵郡北川村字下赤清蔵谷橋を通過し八時二〇分頃下赤に到着し、八時三〇分頃同車の乗客定員四五名を超える五四名(大人四九名、子供五名)を乗車せしめて折り返し延岡に向け発車し、八時四〇分頃前記清蔵谷橋を時速約一〇粁位の速度で通過せんとしたものであるが、同橋は清蔵谷川が北川に合流する地点附近にあり、昭和二六年二月竣工の木橋で全長三六米、幅三、八米、川面よりの高さ約八米で宮崎県がその構造位置等より道路標識によつて四、五屯の重量制限をしており、且つ前日の大量の降雨により前記清蔵谷川が増水したのであるから、定員四五名を乗車せしめてさえ車の自量五、三屯と併わせて七、七屯となり、いちじるしく前記橋の制限重量を超過するのに、定員を九名超過する五四名を乗車せしめたまま同橋を通過すれば如何なる事故が発生するかわからないので、かかる場合は乗客を降車せしめて所謂空車運転をなし、危害の発生を未然に防止する措置をとるべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これを怠り単に速度時速一〇粁位におとしたのみで運転を継統したため、川底より浮き上つていた同橋の橋脚中最も延岡寄りの橋脚の地杭が同車及び乗客の重量にたえきれずために同橋の行桁を損壊させて同車を清蔵谷川に転落せしめ因つて乗客の樋口喜好に全治三箇月を要する第一腰椎圧迫骨折、河原美代子に全治一〇日間の腰部打撲症兼腸出血、権藤孫作に全治二〇日間位の頭部及び前額挫創兼右第六助骨皹烈骨折、河原信男に全治七〇日間位の左肩胛関節脱臼兼結節部骨折、甲斐サチヨに全治約一箇月を要する右胸部打撲兼肝破裂、甲斐末秋に全治二〇日間位の腰部胸椎部打撲症の各傷害を負わせたものである。

(証拠・法令の適用)(略)

なお、弁護人は本件事故当時清蔵谷橋について県のなしたる重量制限に被告人が違反して空車運転をしなかつた点は、外のトラツク、バス等も日常違反しているものであり被告人について結局本件所為に出でない期待可能性はなかつたものである旨主張するが、いやしくも多数乗客の生命身体の安全については極度に留意すべきバスの運転手である被告人が本件所為当時、清蔵谷橋が木橋でありしかも前日多量の降雨があつたにもかかわらず乗客を多数乗車せしめていた点を考えるならば当該具体的状況上空車運転をなすべき注意義務を認めても被告人に対して甚だしく酷であるとはいえないのであるから弁護人の右主張は採用できない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 江藤盛 蓑田速夫 早川律三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例